朝、血圧と熱を測りに来た看護師さんに、陣痛はどこで耐えるのかを聞いた。
「陣痛室を使ってる人がいたら、隣の部屋で他の妊婦さんの声聞くのはツライよね?そうしたら病室になるかなー。」
まさに、自分が心配してる事だった。
隣の部屋から、陣痛に耐える妊婦さんの声、今の状況の私は聞きたくない。
だから、看護師さんの配慮に泣けてしまった。
泣いてたら看護師さんが背中さすってくれて、それがまた泣けて。
8:30頃加藤さんが来た。
今日の流れの説明。
さっそく加藤さんに、
「やっぱり赤ちゃんに会いたいです。」
と言ってみた。
「そりゃ会いたいよー!だってお母さんだもん!」
それだけでまた泣いた。
加藤さんは、
まずはお父さんが会って、それでお母さんに会わせるかはお父さんの判断に任せる。
と。
「私たちは仕事で何人もそういった赤ちゃんを見てきて、見慣れてるけど、普通の人は初めて見るでしょ。」
だから、判断はもうお父さんに任せます。と。
「会う。」
はんちゃんに伝えた。
8:45に車イスで診察室へ。
棒を抜くのも、入れるのと同じ程痛いとネットで見たけど、
抜いたらもう棒は入ない!という思いだけで耐えれた。
この激痛はこれで最後と自分に言い聞かせて。
子宮を収縮させる膣剤がついに入った。
あーあ。
入っちゃった。
ごめんね。
と思った。
そのまま車イスで陣痛室へ向かった。
そうたろうを産んだ以来5年ぶりに入る陣痛室。
薬を入れて30分程で腰が痛みだしたけど、まだまだ生理痛なみ。
はんちゃんと5年前の話を懐かしんだ。
9時に陣痛室へ入って、手元にスマホもテレビも本も何もないけど、何もいらずに過ごせれた。
頭の中が忙しくてそれどころじゃなかった。
ついにこの日が来てしまったんだ。
赤ちゃんの心臓はまだ動いてるのかな。
どんな風に陣痛がくるのかな。
とか。
助産師さんが定期的にどお?
と様子を聞きにきてくれるけど、自分の状態を伝えるのが難しい。
腰が痛い。
強い鈍痛が頻繁にあるけど、陣痛の様に定間隔ではない。
痛む時間も決まっていない。
これがどういう状態なのか全く未知。
何回目かの時に、ずーーーっと気になっていた事を聞いてみた。
「今、心臓は動いているのか。
心臓が動いたまま産まれるのか。
産まれる前に止まってしまうのか。
産まれる前に止まってしまっても、苦しかったかなごめんね。
ってなるし、
心臓が動いたまま産まれたとしても、息ができずに心臓止まって、苦しかったかなごめんね。
ってなるし。
というのを考えてしまって、それが苦しい。」
と。
助産師さんは、
「いいの?
知りたい?」
と、そこまで現実を知って私が大丈夫なのかを心配そうに聞いてくれた。
そうしたらはんちゃんが、
「気になる事は全部聞いて、知っておけばいいよ。
それに、いいじゃんどっちでも。
お腹の中で止まっちゃったなら、それは、はなちゃんがお腹の中で看取ってあげれたってことだよ。
心臓動いたまま産まれたなら、それはそれで、一瞬でもこの世に生きて産まれれたってことだよ!」
と言ってくれて、この言葉ですごく心が救われて号泣した。
今でもこの言葉を思い出すと泣ける。
結局助産師さんが、
「今赤ちゃんの心臓が動いてるかどうかは知る事はできないけど、心臓が止まって出てくる子、動いたまま出てくる子、それぞれだから、産まれてみないとわからない。」
と。
全部知っておきたいから、それは後で教えてもらうことにした。
お昼前に加藤さん来た。
2錠目の収縮剤を入れることに。
「まだ子宮口硬いねー。今2㌢。1錠目で一応反応はあるから、3錠目を15時に使って、それで夕方産まれればいいかなーってとこかな。」
?!。
まだそんなにかかるんだ。。。
加藤さんが去ってから、急に痛みが激増。
何これ!何これ!
痛みが。
痛いー!痛いー!と耐えていたら、スゥーーっと痛みが消えた。
あれ?何だったんだろう?
と思っていたら、ポコンとお腹の中で何か鳴って、ん?と思ったらアレヨアレヨと股から水がジョボジョボと。
ナースコール。
破水らしい。
破水したら一旦痛みがひいてしまった。
加藤さんいわく、破水すると圧が抜けて少しラクになるらしい。
陣痛室にお昼が運ばれてきた。
鈍痛や腰痛があって、食欲もなかったから、はんちゃんに食べてもらった。
サラダうどん。
起き上がって麺をチュルチュルーなんて吸えるゆとりは全くない。
横になっていたら、だんだんと痛みが出始めた。
加藤さんが様子を見に来てくれた。
「そろそろ痛みがまた始まったかなーと思ってー。」
加藤さんの内診。
「さっきより子宮口柔らかくなってきてるよ。これからキュウー!キュウー!って下に向けて痛みが陣痛みたいに強くなってくると思うからね。」
と去ってくと、ほんとに痛くなりだした。
キュウー!と下に向けて痛みがすごく強くなった。
そうたろうの時の陣痛を思い出した。
激痛に苦しんで、一瞬だけ和らいで、でも和らいだと思ったらすぐまた激痛。
そうたろうの時はもっと、
フゥーって息抜く時間あったよね?!
と思った。
何度か陣痛の波を乗り越えて、ここまで痛いならもうナースコールしてもいいのかな?
と思って呼んだ。
扉を開けると同時に加藤さんが、
「痛いねー。じゃー向こう行こうね。」
と分娩室へ移動。
いろいろ複雑な気分だった。
あー終わるんだー。
もうこれでほんとに終わってしまうんだー。
私空っぽになるんだー。
臨月の妊婦みたいに大きなお腹じゃないのに、分娩台に乗るのが不思議な気分。
何度か陣痛を見送って、加藤さんの準備が整ったら、
「じゃーうんちを出すみたいにグッといきんでみよっか。」
と言われてグッとした瞬間、チュルンと。
あ。
でた。
13:09。
そうたろうの時なんて、何回も何回もいきんでやっと出たのに、あっけないものだった。
加藤さんが赤ちゃん取り上げてくれて、台に乗せに行って、
「11㌢。65㌘ねー。」
へーーー。
11㌢ね。
65㌘か。
ちっちゃいなー。
ちっちゃいなー。
と考えていたら、また陣痛が。
次は胎盤を出産。
赤ちゃん産むより陣痛が痛い!
胎盤を出すために、子宮をグリグリグリー!!
と押されて、痛いのなんの。
っあ"ーーーっ!!
と悲鳴をあげずにはいられない。
胎盤が出るまでしつこく子宮をグリグリと。
陣痛も痛いし、グリグリも痛いし、もう地獄の様だった。
やっと胎盤が出た。
今度は子宮の掃除。
遠慮なく子宮の中を掃除。
痛かった。
全部が終わって、今度は子宮が戻ろうとする収縮の痛みが襲ってきた。
ウワァー!!何この痛み!!
と叫びたい程の、苦しい痛み。
はんちゃんは隣でついに我が子と対面。
「へぇー!」
「キレイ!すごくキレイ!」
「感動する!」
と声が聞こえてきて、私も早く会いたい一心。
ここ数日、会うのが怖いと考えていたのがほんとうにバカらしい程、とにかく会いたい!!
と思った。
そうたろう産んだ時と何も変わらない。
そうたろうの時と全く同じ気持ちで、早く会いたいと思えた。
加藤さんに、
「どうする?見る?」
と聞かれて、迷わず、
「会いたいです!」
と伝えた。
「今キレイにしてるから待っててね。」
と言われて、はんちゃんが戻ってきた。
はんちゃん泣いてた。
でも、感動の涙だって。
「キレイだよ。ほんとうにキレイで感動するよ!」
と。
私の横ではんちゃんが号泣してて、ほんとうに感動なんだなというのが伝わって、まだ会っていないのに泣けてきた。
ついに赤ちゃんと対面。
小さな箱にガーゼをひいてもらって、その中で寝てた。
すごく素敵なものに出会えた気分。
のちのち、はんちゃんが、
「俺は妖精に会った。」
と言うけど、本当にその通り。
妖精だよあれは。
あんなに小さいのに、はんちゃんにそっくりで。
瓜二つすぎて驚く程。
男の子だった。
色々な感情が溢れすぎて、ここ数日の中で1番思いきり泣いた。
あまりにもかわいくて、ちゃんと産んであげたかったなという思いもやっぱり出て。
はんちゃんに瓜二つすぎて、こんなそっくりな子、産んであげれたらはんちゃん喜んだだろうなー。とか。
赤ちゃんとの対面も終わって、現実的な時間が戻ってきた。
はんちゃんはそのまま市役所の窓口へ死産届けを出しに。
私は忘れていた痛みがまた襲ってきた。
分娩台で1時間横になる。
あまりの痛みに吐き気も出てきたので、ナースコールをして、子宮を収縮させる点滴のスピードを弱めてもらった。
1時間痛みに耐えたら、だんだん鈍痛になってきてだいぶ緩和された。
病室へ移動するためにゆっくり起き上がる。
吐き気が。
ドバッと吐いた。
スッキリした。
その時に、陣痛室で気になっていた事を聞いてみた。
「赤ちゃん、生きてました?」
「言ってもいいんだよね?」
「お願いします。」
「私が見た感じだと、赤ちゃんの心臓は、産まれた時にはもう止まってたよ。」
と。
そうか。
やっぱりそうか。
辛くて苦しかったけど、
「私がお腹の中で看取ったんだ。」
と、はんちゃん言ってくれた言葉を自分に言い聞かせた。
車イスに移って、病室へ。
ベッドに横になりながら、
はぁーーー。
終わったんだー。
全部これで終わったんだー。
と、喪失感半分、解放感半分な気分だった。
母に電話。
気分スッキリなつもりだったけど、話していたら泣けて泣けて。
うまく話せない程泣いた。
はんちゃんが戻ってきた。
死産届けというものを初めて見せてもらった。
複雑な気分だった。
出産したのに、出生届ではなく、死産届。
はんちゃんが赤ちゃんに会った時、
「お前をこの世にまた呼び戻してやる!」
と思った。
と聞いて、はんちゃんもそう思ってくれてた事が嬉しくて泣きそうになった。
少しづつ痛みも一般的な生理痛な痛みになってきたので、母にそうたろうを連れてきてもらった。
久しぶりのそうたろう。
かわいい。
改めて、健康に産まれて来てくれたことに感謝。
と同時に、
さっき会った赤ちゃん、ちゃんと育てて、無事産んであげて、そうたろうと会わせてあげたかったなーという思いも。
兄弟になるはずだっただよなーと。
そうたろうが私の布団に入り込んできて、
「はなとずっとこうしたかっただよ」
と、イチャイチャして帰っていった。
この日も普通に寝れた。