エピローグ

5年前も、今年も、はなちゃんに言っていた。
「子どもを産むからには、どんな子でも受け入れる覚悟を持たなければいけない。」

今は活動していないが、20代にバンド活動をしていた。
約10年前。もしかしたら、この時から、今日のことを覚悟していたのかも知れない。
趣旨は少し違うが、えぐられるような曲を書いていた。
最後に、この機会に聞いてほしい。





水の精



もうすぐだ。
もうすぐだ。
このえんが紡ぎきれるまで。
ずっと待って、
ずっと待っていた、
このえんが描ききれるまで。


父親になるはずの人、
彼はただ、
言葉を失っていた。

母親になるはずの人、
彼女はただ、
ただただ、
泣き続けた。

今度の命は
僕に何を与え、
何を課したはずだったろう。

どんなにそれが不遇でも
生まれてみたい。

たとえ望まれず生まれた子で、

たとえそれで愛されなくても、

どんなに恵まれずとも、

生まれて、
生きてみたい。


父親になるはずの人、
彼はただ、
溜め息をついていた。

母親になるはずの人、
彼女はただ、
ただただ、
泣き続けた。

今度の命は
僕に何を捧ぎ、
何を罰すはずだったろう。
どんなにそれが不幸でも
生まれてみたい。


例えば、
容姿が醜くても。

病に侵されて生まれても。

五体満足にも恵まれていなくても。

もはや生きていることでさえも、
理解できぬ子だとしていても。

感じることさえ、
ままならなくても、

大災害の地で育とうと、

戦争中に生まれ落ちても、

それで短い命でも、
生まれて生きてみたい。



ねえ、
いい子にするから。

何も欲張りはしないよ。

いい子にするから。

せめて、
生まれて生きてみたい。


恋をして、

友達を作って、

冒険をして。

傷ついて、

裏切られ、

でも、また人を信じて。


ずっと待って、
ずっと待っていた。

だから僕を、

僕を、殺さないで。





追記 2015年12月4日



エピローグ掲載曲「水の精」がYOUTUBE音源になりました。
悲しいけれど、温かいメロディが心に残る楽曲です。

https://youtu.be/jqnbW2eMIt4





最終話「お腹の子は、無脳児でした。」~妊娠498日の約束~
を、STORYS.JPで公開しました。

http://storys.jp/story/19595